
2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう」では松葉屋の呼び出しという地位の花魁、松の井が出てきます。この松の井役は久保田 紗友が演じています。
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ここでは、当時、松葉屋に松の井という花魁が本当にいたのか?そして、呼び出しというのは、どういう地位なのかという点を中心に見ていきます。
松葉屋に実在した松の井
吉原には大見世、中見世、小見世など妓楼がしっかりと格付けされていました。その中で最もランクが高い大見世の一つが新吉原江戸町1丁目にあった松葉屋です。
安永四年(1775年)に発行された吉原のガイドブック、吉原細見を見ると、松葉屋は次のようになっています。

赤で囲んだ部分を見ると確かに「松の井」と書かれています。松葉屋に松の井と呼ばれる遊女がいたことがわかります。
礒田湖龍斎の描いた松の井
美人画の名手として知られた礒田湖龍斎が松葉屋の松の井を描いています。
雛形若菜初摸様・松葉屋内松の井 礒田湖龍斎画

出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-10569-2258?locale=ja)
一目千本に描かれた松の井
蔦屋重三郎が北尾重政の絵で遊女を花に見立てて出した本「一目千本」(ひとめせんぼん)では松の井は男郎花に見立てられています。

『一目千本』(大阪大学附属図書館所蔵)
出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/100080738
昼三と呼出
さて、上記の吉原細見で「松の井」と書かれた名前の上に記号が付いています。これは合印と呼ばれるもので、遊女のランクを示しています。
松の井が載っている一番上の段には名前の上に2つの山形と、その下に星と呼ばれる黒い丸が1つ付いています。これは昼三(ちゅうさん)と呼ばれるランクで、このランクは吉原の高級遊女である花魁レベルに相当します。
この昼三というのは昼の揚げ代が三分だったことに由来しています。この昼三は同じ花魁でも「呼出」と呼ばれる花魁よりも下のランクでした。この時点では松の井はまだ呼出ではなかったようです。
参考までに同時期の扇屋の頁を見てみると、「よび出し」として、「花あふぎ」(花扇)の名が記されています。

高名美人六家撰・扇屋花扇 喜多川歌麿画

出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-10569-528?locale=ja)
呼出と花魁道中
では、呼出というのはどういう花魁をさしていたのでしょうか。通常、遊女は張り見世、つまり格子の奥にならんで客引きを行います。
下の図は喜多川歌麿が描いた「青樓繪抄年中行事」の一図で、張り見世の様子が描かれています。このように張り見世では、お客が実際に遊女を見て、指名することができます。
右上の部分に格子が無いことから、この図で描かれている妓楼は松葉屋のような大見世ではなく、ワンランク下の中見世であることがわかります。

これに対して、呼出はこうした張り見世を行わず、指名があった時、茶屋へ出かける形を取ります。つまり、張り見世を行わない指名専門の花魁だったと言えます。
そして、この茶屋に出向くとき、禿や新造などを従えて練り歩くのが花魁道中です。花魁を見物しようと多くの見物人が出たようです。
因みに花魁道中ができるのは大見世と中見世の遊女に限られていました。

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