江戸時代に吉原で生まれ育った蔦屋重三郎は、出版業界を席巻するかのような大活躍を見せます。しかし、そうした活躍を支える人たちも多くいました。今回はその中でも、きっと内助の功があったに違いない重三郎の妻について見ていきたいと思います。
蔦屋重三郎の妻は誰?
2025年のNHK大河ドラマの「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」で蔦屋重三郎の妻を演じているのは女優の橋本愛です。役名は「てい」という名前です。
ところで、2021年に公開された映画「HOKUSAI」では阿部寛が蔦屋重三郎を演じています。そして、その妻を演じたのが魏涼子で、役名は「トヨ」です。
「あれっ?妻の名前が違う…」と思った方もいるかもしれません。そうなんです、実は蔦屋重三郎に妻がいることはわかってますが、その名前はわからないのです。ですから、名前が一定していないのです。
因みに、「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の前年の大河ドラマ「光る君へ」の主人公である紫式部も作品中では「まひろ」と名乗ってますが、これはドラマ限定のオリジナルの名前であり、実際のところ本名はわかっていません。
同様に清少納言も作品中では「ききょう」とされてますが、本名はわかっていないのです。これを考えると、蔦屋重三郎の妻の名前が分からなくても不思議はないですね。
では、蔦屋重三郎の妻に関する情報は何もないのかというと、そういうわけではありません。
蔦屋重三郎の妻の情報
天明六年「絵本吾妻抉」 蔦屋版 北尾重政画
恵比寿に祈願する蔦重一家。頭を下げる主人の横でしっかり者風の奥さんが手を合わせています。横にいるのは子どもでしょうか?天明六年(1786年)と言えば、蔦重が活躍していた時期で、非常に世話になった北尾重政の描いた絵というのも重要です。
なんとなく、一家の雰囲気を伝えているように感じますね。
天明五年(1785年)「艶本枕言葉」 長命館主人
この艶本には蔦屋重三郎と女性との床でのやり取りが書かれています。図はこちらから。
枕元に手紙があり、「から丸様 赤良」とあり、四方赤良こと太田南畝から、蔦唐丸こと蔦屋重三郎への手紙だということがわかります。つまり、男性は蔦重であることを示しています。
また、上には「しめて寝る、二人が中の二重帯、とけてからまる夜半のむつごと」という狂歌が添えられています。
この「からまる」は蔦屋重三郎の狂名である「つたのからまる」に掛けています。
では、描かれているセリフを見てみます。
女性「人のいふ事もききもしねへで、そんならどうとも好きにしたがいひ。」
唐丸「モウあやまりあやまり。よくふくれるやつの。こふいふ所をうた丸(=喜多川歌麿)にかかせてへ。」「これさこれさ、じやうだんじやァねへ。月成(=朋誠堂喜三二)さんのとこからなんといって来た。そしてねぼけさん(=四方赤良)ハいつこよふといはしった。」
すごく具体的な会話ですが、どうも、作者の長命館主人に二人のこのシーンを見られていたようです。
ところで、このシーンの女性ですが、蔦重の妻で、吉原帰りの夫とのやり取りと捉えているものや、機嫌を損ねた遊女とみるものなどがあります。
どちらと見るかでまったくイメージが変わりますね。
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